はじめに
引き続き今回も、「UX DAYS TOKYO 2019」のイベントレポートをお届けしております。
前回までのレポートはこちら「UX DAYS TOKYO 2019 イベントレポート vol.1」「UX DAYS TOKYO 2019 イベントレポート vol.2」です。
1日の流れ通りに時系列でレポートしておりますので、よろしければvol.1とvol.2も合わせてご覧ください。
今回は最後の2セッションのレポートをお届けいたします。
15:40-16:30 セッション5「UX設計での行動経済学の重要性と理解」
Roxy Borowska & Jerome Ribot(ロキシー・ボロウスカ& ジェローム・リボット)
Coglode UXデザイナー
レポーター:佐々木 晋哉(テクノロジカルマーケティング部 データマーケティンググループ UXリサーチャー)
行動経済学の3つの原則 振る舞いについて学ぶ
その本論の前に
行動経済学の前、かつて人をどの様に考えていたのでしょうか?
人は、「ホモエコロジカス」と呼ばれ、合理的な人として考えられていました。
人は、得られる全ての情報を処理して、最適な合理的に判断をする合理的だと考えられていたのです。
しかし、実態は「常に合理的にふるまう」とは考えがたい ですし、人はそれとはかけ離れた行動をとります。人間は認知上の思い込みで行動している のです。
別の側面でバイアスとして考えてみると
世界中どこでもバイアスを確認できます。例えば社会や文化で異なるバイアスがあります。
共通のバイアスもある
行動経済学、社会心理学、認知科学、等で研究されている分野で、ビジネスに影響する多くの領域があります。以下がその代表的なものです。
Experience
ユーザーのそれまでの体験を通じた、良い感情か、悪い感情かの判断。
Pricing
製品の価格付けについて。正しいか否か。
Conversion
どの様な振る舞いを見れば、試すだけの人、買う人を見分けられるのか?
Brand perception
ブランドの認知と受容
Loyality
ロイヤリティーを感じリピートするかどうか?
例)なぜ同じカフェに戻るのか?
Intuition
直感、簡単に何かを理解できるということは、何が原因なのか。
Habits
癖・習慣のこと。
今年だけで無く、来年、再来年と考えると、意思決定する時に、すでにある習慣が影響する。
またその習慣を辞めるのはどうすれば良いか?
行動経済学
行動経済学は、イギリス政府によっても研究されていたり、マッケンジーカンパニー レポートなどのビジネスでも利用されている背景がある。
Google アドワーズ
顧客維持率が14%向上した事例。
リフレーミングして、同じ情報を異なる形式で提示して、異なる意思決定をさせる。
貯蓄4倍のプロジェクト
初年度は少ない金額で貯蓄を開始させ、二年目以降、給料の増加に応じて少しずつ増加させる。
本論:行動経済学の三つの行動原則
1)scarcity:希少性
供給が少ないと価値が高いと考える。
事例1
実験:入っているクッキーの量が異なる2種類の瓶を準備
入っている量の異なるどちら便から、クッキーを取り出して食べると
もっと食べたいと答えるのか?
結果:瓶によって「もっと食べたい」と答える比率が異なる
クッキーの量が多い瓶から取り出した方が、「もっと欲しい」と答える人が少ない。
事例2:本屋
売り場に一冊の本のみ売っている本屋。その1冊は毎週変わる。
【やってはいけない事】ただし、「嘘の希少性」はダメ。
事例3:航空業界
席が少ない多いので予約する。
でも、後で残席がまだある事に気づくと腹が立つ。
事例4:スターバックス
時間の希少性(期間限定)のケース。
5日間限定で販売される予定が、結果3日で売切れる。
【やってはいけないこと】
量が余りにも少なすぎると、かえって問題になる。
韓国の店舗で、福袋の17000個販売計画があったが、1店舗当たりで計算すると15個のみということがわかり、期待はずれとなる事例もある。
事例5
場所の希少性のケース。
スタジオジブリのジブリの森美術館だけで上映されている15分フィルムの捕鯨アニメ。
美術館現地でしか観ることができないという場所の希少性に関するケース。
事例6
同様に場所の希少性のケース。
とあるハンバーガーチェーンでは、各レストランごとに各地域のハンバーガーを作っている。
それぞれ各地域に行かないとその商品を食べることができない。
2)驚き Suprise Effect
実験:食事時に無料でデザートもらう・もらわないの体験が異なるグループにわけ、その後にどのくらい楽しかったか?を聞く
結果:デザートもらった方が「楽しかった」が高い
かつ、デザートをもらった人の中でも「無料デザートをもらえる理由を聞いた方」がより「楽しかった」が高くなる。
とはいえ、毎日続きすぎると普通の事になってしまう(その効果自体に慣れてしまう)。
驚きを与えられた理由と、カスタマージャーニー上のタイミングと、驚きの大きさの加減も重要なこと。
なおかつ、驚くことでタスクを阻害するようなことがあっては逆効果になってしまう。
以下は、悪い驚きの事例。
飛行機のチケット購入のケース。
最初は安い金額が提示されているが、申し込みを勧めていくと、コストが追加でかかってくることが後になってわかる。
3)好奇心 Curiosity Effect
人は、足りないものは埋めたくなるし、知らないことは知りたくなるものということ。
事例
実験:ファッションセールで、グループを2つに分けて行った実験
Aグループ:特別オファー「40%引き」を最初から知っている。
Bグループ:特別オファーがあるのは知ってるが、最後の会計の時まで詳細を知らされない。
結果
Bの方が多く買う結果になった。
ユーザーは、不明情報の穴を埋めたがり、特別オファーの情報への興味が高まっていた、ということ。
【やってよいこと】
もっと知りたい気持ちを高めるためにも、「情報の一部を見せる」といったことは、好奇心を考慮した施策に関しては効果的。
【やってはいけないこと】
注意深くしないとダメで、待たせすぎても良くないし、情報を見つけやすくする必要もある。
事例:どこに行くか分からない旅行(旅行予約サービス)
日程は決まっていて、準備が必要な荷物リストのみが事前に連絡される。
旅行出立直前に、空港でどの便に乗るのかが判明するようなサービス。
ただし、
【やってはいけないこと】
隠されていると、返って不安につながりやすいので、どの情報を隠すのか?は注意しないといけない。
少なくとも、旅行先の天気予報を知らせてくれる、など。
日本の 福袋 を例に考える事ができ、実際の福袋は、
- 数量が限定されている、という希少性
- 中に何が入っているかわからず、好奇心でワクワクする
- 中身を見てサプライズを体験する
の順番で成り立っていることがわかる。
まとめ
大切なのは「顧客にどう感じてもらいたい(どういった感情を実現する)のか?」ということ。
具体的には「楽しんでもらいたい」のか「喜んでもらいたい」のかなどなど。
行動リサーチはパワフルな手法だが、あくまで出発点でしかなく、リサーチを経て、裏打ちされ自信がついていく。
専門家さえもどのリサーチ結果が良いか、わかってないということも現状である。
それ故、実験的なマインドセットが必要で、「どう意思決定に至るのか?」を考えながら製品を作るとより良いサービスになるとのこと。
所感
行動経済学の三つの行動原則「希少性」「驚き」「好奇心」は、アオリ広告にも利用されているノウハウにも思えて、ユーザーの体験価値を考える際は不の負債として取り扱いがちでした。
しかしながら、適切な設計を心がける事により、利用意欲や満足度を向上させる事ができる有効な行動原則だと理解できました。その取り入れ方のバランスは、対象となるサービスによって異なり、実験しながら知見を蓄積する必要がありそうですが、今後のサービス設計に上手く適合して行きたいと思います。
来場者からの質問
国ごとの感覚の違いについて例を知りたい
東洋だと、グループメンタリティがとても強く、人がワインを選んでいるのを見て自分も後から同じものを買ったりしますが、西洋だと個性が重視される傾向があるため、他の人と違っていたいという人が多い傾向があります。
「東側の社会は、社会的な影響が強い」「西側の社会は、個人主義的な影響が強い」といった側面です。
ただ、西洋の社会の人々も勿論他人にも影響を受けますが、東洋と比べてバランス・重みは変わる傾向にあります。
16:40-17:30 セッション6 「ストーリー(ナラティブ)に隠れる数値を探そう : メトリクスの活用方法」
Kate Rutter(ケイト・ルター)
米国サンフランシスコ在住のUXデザイナー、指導者、起業家。
レポーター:大垣 麻衣(株式会社リブセンス アルバイト事業部 SEO/UXグループ クリエイターチーム デザイナー)
スピーカーのKate Rutter氏は、20年以上にわたり様々なプロダクトの設計を行ってきた経験を活かし、UXデザイナーとして様々な起業家やデザイナーにコンサルティング・助言を行っています。
UX DAYS TOKYOへの登壇は2回目となるRutter氏ですが、今回のカンファレンスにおいては、サービスを顧客に提供・改善する上で必要不可欠である「そのサービスや製品は顧客に対して有効なのか?」という命題に対し、どのように解答を導き出していくのか?についての具体策を実例を交えて紹介、また定量的なデータを見ることの大切さについて聞くことが出来ました。
今までのキャリアの中でいろんな仕事をしているが、今は次世代の若者たちに教える立場になっている。
チームで効率よく仕事ができるよう、またうまく失敗することの重要さを伝えたい、と仰っていました。
UXについて悩みすぎて、夜も眠れないこともあります
悩みの例を挙げると、
悩み① 「ユーザーは私が作ったものを満足して使っているだろうか?」
ユーザビリティテスト__で解決できます。
__悩み② プロセスがうまく行っていることをどうやって確認したらいいんだろうか?
スケジューリング、振り返り により解決できます。
悩み③ 私たちの仕事はうまくいっているんだろうか?サービスによってお客様の生活は良くなっただろうか?
この悩みだけは、正解を見つけることが難しい!
すると、眠れぬ夜が続きます…
3つの質問
サービスをつくるなかで、以下3つの質問が重要
1.何を達成しようとしているか?
言葉 で伝える
2.成功したらどうなるのか?
絵 で伝える
3.実績をどのように計測するか?
数字 で伝える
そして、プロジェクトをうまく回すため、3つの言語をうまく使うことも重要
上記の質問に当てはめると、一般的なUXデザイナーの得意分野は以下の通り
1.言葉で伝える→ 得意!
2.絵で伝える→ まぁまぁ得意!
3.数字で伝える→ 苦手
どうしてこうなってしまうのでしょうか?
UXの数値での測定方法を知ろうと考えた場合によくあること
いい書籍があるので、読んでみる!
測定という言葉があるな…
難しい公式が書いてるぞ…
挫折…OTL
これがよくあるパターンですね。
数字を使うことは、自分の仕事と思っていない人が多いのではないでしょうか?
しかし、数字こそ自分の仕事と思ってみませんか?
なぜなら、
- デザインに関わるビジネスサイドの人との会話には、数字が必要
- プロダクトチームと協業
- インターフェイスを作るときに 計測できるように
などができるようになります。
数字の話をしよう
Webサービスやアプリの計測では「ダウンロード数」「滞在時間」がよく挙げられると思いますが、それらでは UXの指標を測れません。
じゃあ何を見ればいいのでしょうか?
顧客をまず理解しよう
ユーザーリサーチの分類は以下の通り。
メトリクスとは、様々な活動を定量化し、その定量化したデータを管理に使えるように加工した指標のこと。
メトリクスと分析により、よりよいUXの計測が行える。
計測できる数値は「クリック率」「ABテスト」「コンバージョン率」「KPI」など多種多様だが、
基本は「ユーザの利用状況」に着目して考えるとよい。
例)DAU、MAU、CPA、ARPDAU、Retentionなど
計測指標のフレームワークの紹介
古いフレームワーク
PULSEメトリクス
- PageView(ページビュー)
- Uptime(稼働時間)
- Latency(遅延時間)
- Seven-day active users(7日間のアクティブユーザ)
- Earnings(収益)
もうちょっと新しめのフレームワーク
Pirateメトリクス(海賊のメトリクス)
- Acquisition(初回接触)
- Activation(活性化)
- Retention(継続利用)
- Referral(紹介)
- Revenue(収益化)
HEARTメトリクス(指標)
Googleのフレームワーク
- Happiness(幸福)
- Engagement(エンゲージメント)
- Adoption(採用)
- Retention(継続)
- Task Success(タスクの成功)
各フレームワークの共通点
「Retention」から「定着」を考えているところ。
出て行ったユーザーを取り戻すのはとても難しいので、この定着率を上げるのがUXデザイナーの頑張りどころです。
スタートアップを成功させるために、LEANな手法を使うのが重要。
どうやって製品のパフォーマンスを測ればいいのか?
→LEAN ANALYTICS を読みましょう!
LEAN ANALYTICSで学ぶ5つの指標
チームとして、まずはじめに何を計測すればいいのだろうか?
よりよい数値とは、以下のような要素が考えられる(LEAN ANALYTICSより)
明確、具体的
- 望ましいユーザー行動がはっきりしている
- 明確なインタラクション
- 数値で価値を測れる
標準化、正規化
- 1つの数値だけ見るのではなく、関連して変わった数字と合わせて判断する
比較可能であること
- リアルタイムに製品の情報が数値でわかるととてもいい
- 先週と今週で比較できる、定期的に測っていくことができる
- 異常値にいち早く気づくことができる
実用的な数値であること
- 自分たちのやっていることに誇りを持てる数値!(絶対上がっていくから)
- だがあまり役には立たない
- ユーザーの全数、ダウンロード数、ページビュー数など
行動を変えられること
- これが最も重要な条件
- 指標として計測している値が変化することで、我々が行動を変えられるようなもの
では、UXデザイナーとして具体的に何ができるのか
作り出す製品によって何を達成しようとしているのか?を明確にしよう。
ユーザーストーリーにより、達成するべき目的と、実際作り出すものの「形」をつなぎ合わせることができる。
ここで、サービスをつくる上で重要な3つの質問を思い出そう
1.何を達成しようとしているか?
言葉で伝える
2.成功したらどうなるのか?
絵で伝える
3.実績をどのように計測するか?
数字で伝える
上記を踏まえて、UXデザイナーとしてできるアプローチは、以下のようなことです。
言葉で伝える
- ユーザーストーリーカード「○○は○○によって○○ができる」
絵で伝える
- 絵によってコンテキスト、情報、シナリオを 視覚的に伝える
- メリットを伝えることもできる(プロダクトがあると何が嬉しいのか?)
- UI、インタラクションの 視覚化
数字で伝える
- どの指標が大事だと判断できるのか?
- インターフェイスの部分も数値を測る必要がある
※ 特定のプラットフォームにこだわる必要はない
※ UIスケッチで、どの部分を測る必要があるか?示す - ダッシュボードを使いたくなるかもしれないが、まず落ち着いて一番簡単なものから始める
- 紙に目標を書き、データを書いて比較するなどで構わない
※ 慣れてきたら折れ線グラフを使ってみてもいい(比較可能なデータ)
「 私たちはここを変えたから、数値がこのようにかわった」 と言えたら、とても強いUXデザイナーです!
お客様の夢を実現するのが皆さんの目的なのです。それを解決してぐっすり寝ましょう!:D
来場者からの質問
妥当性の検証はどのような定量指標が利用できる?
まったく新しい物を作る場合はLEAN STARTUPのやり方で、とにかく仮説を検証するのが一番です。一回で完璧なものをつくることはできません。
ものをつくってしまったらお金がかかってしまいますが、デジタルの世界ではもう少し安上がりにできます。
はじめから全て定義するのではなく、少しずつ出してキーカスタマーの振る舞いを検証してみるのが、リスクを減らして自信をつけるために最適な方法です。
まとめ
昨年に引き続き、今年もリブセンスのデザイナー陣で(しかも昨年の倍の6人!)UX DAYS TOKYOに参加することが出来ました!
朝からぶっ通しで集中して聞くことになるため、なかなか大変でしたが、貴重なお話をたくさん聞くことができました。
ありがとうございました!